浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!



 王宮でオデットと遭遇した翌日。テオドールから手紙が届いた。

『しばらくは王宮に来ないで下さい。そして外出も控えて下さい。今は理由を明かせませんが、後日貴女に会いに行きます』

 短い文からは、いつもの彼の感情が見えず、セリーヌはとても不安になった。

 元気になったテオドールは元々美しい顔をしていたが、さらに格好良くなった。対してセリーヌは、このゲームの悪役令嬢だ。
 艶やかな銀髪も妖艶な身体も魅力的だと侍女達は褒めてくれるが、オデットのような可愛らしさはない。よく考えたら、アベルに捨てられた年上の悪役令嬢が好きになってもらえるわけがない。

 命の恩人であるセリーヌとの約束を守ってくれようと、無理しているだけなのかもしれない。愛しているふりをしていただけかもしれない。

 セリーヌのことは用無しなのだ。でもテオドールは優しいから、セリーヌを無碍に扱えないのだろう。テオドールとオデットが仲良くしている様子を私に見せないように、配慮しているのかもしれない。
 浮気されるのが怖い。もしもう既に浮気していたら? 浮気を知るのが怖い。

──コンコン

「姉上」
「フィル……」
「大丈夫か?」

 自室で塞ぎ込むセリーヌを心配して、弟のフィルマンが声をかけてきた。フィルマンを見るとどうしても、テオドールを思い出してしまう。思い悩み続けていたセリーヌの涙腺はあっという間に崩壊した。

「うぅ……っ」
「えぇ!? な、泣くな! 姉上!」

 セリーヌの涙にフィルマンが慌てていると、心配して扉の前で聞き耳を立てていた両親も入室してきた。

「あらら! セリーヌを泣かしたのはフィルね?」
「コラァ! フィル!」
「ち、違う! 俺は何もしてないってば!」

 思いがけず家族が勢揃いして、セリーヌを慰める会になってしまって、セリーヌはその賑やかさに少しだけ救われた。そして、前世のことは言えないが、「オデットがテオドールの目の前に現れ、その上テオドールに会えなくなって不安であること」を吐露した。

「ふふ、セリーヌは殿下にしばらく会えないと言われて、不安だったのね」
「詳しくは言えないが、セリーヌが心配することはない」

 両親はセリーヌの話を聞いても動揺せず心配無用だと断言する。何故そんなに自信が持てるのか分からないが、後ろ向きだった気持ちが少しだけ方向転換していく。

「姉上がテオのことそういう風に見ているのが分かって良かったよ。俺と同じ『弟』扱いなんじゃないかってちょっと心配してた」
「弟?」
「昔からテオのこと、俺と同じような感じでよく面倒見てただろ?」
「いいえ……。全然、全然違うわ……」

 いや、確かに幼い頃、テオドール殿下と一緒に遊んでいた時には、姉のような気持ちだった気がする。
 でも今は。今は弟だなんて微塵も思っていない。それどころか、アベル殿下には抱かなかった、特別な想いが育まれている。セリーヌは自分のテオドールへの気持ちを、今はっきりと自覚したのだった。
 
 真っ赤に頬を染める娘を両親は微笑ましく見つめる。そうして両脇から優しく頭を撫でる。セリーヌは大人しくその優しさに甘え、母の肩にコテンとその小さな頭を乗せた。

「幸せになるのよ」
「なれるかしら」
「大丈夫だ!」
「テオが幸せにしてくれるだろ」
「……もし、また婚約破棄されたら、この家に戻って良いかしら」
「当たり前でしょう」
「ここにずっといればいい」

 あたたかい家族の言葉に、セリーヌは少し元気を取り戻したのだった。