夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。

所詮ただの子供の戯言だと,お父さんはきっとそう思っている。

それでも春陽くんが頷くのならと,寄せる表情の奥で必死にと言葉を堰き止めているのだ。



「お父さんが厳しく接するのは……自身の身体を心配しているからですか? ……親として,自分がいなくなったあとのことをいつも考えているんですよね」




キッチンにあった錠剤は,多分糖尿病か何かの薬だろう。

年々老いていく身体にも,不安を感じていていい年齢だ。

春陽くんが1人でも生きていけるように育て上げたいのに,先の見えない不登校に焦れを感じていたのだろう。



「そうだ。なのに,当のこいつはと来たらこの先どうするつもりだと聞いても一向に答えない。どうする事もできないからだ。通わないから教養もなく,働いた経験すらもない」



お父さんの言葉は決して間違ってばかりではない。

確かに春陽くんの将来を想っている。

だけど,やり方がやっぱり私には共感できないのだ。

今の目の前にいる彼を,蔑ろにしているようで。

私が味方をするのは,春陽くんだから。

春陽くんの心を,大切にしたいから。



「それでも。やっぱり少し待って欲しいんです。春陽くんが自分のことを決められる日は,そんなに遠くないから。春陽くんは,十分立派にやっていけます」