夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。

春陽は確かに卓球部で,今も綺麗なラケットが部屋に置いてあった。

そんな話までした覚えが春陽にも無かったのか,無言で戸惑った顔をしている。

20分が経過して,鍋の中は減り,母さんの笑顔が増えた。

春陽にも時々肩をすくめるような余裕が生まれた。

俺はそんな2人を,時々話を繋ぎながら眺めていた。

不思議な感覚だ。

父はおらず,春陽がいて,俺の隣にはついさっきまで名前も知らなかった彼女がいる。
 
頭の中を,沢山の余計な描写が埋め尽くしていた。

ピタリと箸を止めた。

とくとくと感じる。

この感覚は,きっと誰よりよく当たる。

来る。



「みよ」



今更だ。

だけど俺はそれでも名前を呼ばずにはいられなくて,まだ呼び慣れない名前を舌に乗せた。

彼女が箸を咥えて俺を見つめると同時,チャリンと遠くで微かな音が聞こえる。

ーガチャッ

母さんより数倍遠慮なく玄関の扉が開いて,リビングは瞬く間に静まり返ることとなった。