夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。

        "堤 文世"side



全員が奇妙な緊張感を放っていた。

穏やかな顔をした空気が,張り裂けるのを予感していた。

俺は支度をしながら,どうしようかと悩む。

出来れば,家に返してやりたい。

もちろん,あの無鉄砲とも言える優しい彼女を。

父さんが,この光景を目をするより先に。

母さんだって分かってるはずだ。

無駄に刺激して良いことなんか誰にもないってこと。

それでも,きっと。

ちらりと春陽に目を向ける。

さっきまで豊かに動いていたとは思えないほど,表情の一切が裏に引っ込んでしまっていた。

ーあいつが笑って誰かと話すところを,見たかったんだろう。



「三好さんは部活,何してるの?」

「卓球です。卓球もゲームも春陽くんには勝てた事がないので,さっきもトランプしてたんです」



鍋を囲んですき焼きが始まると,母さんは彼女の話を聞きたがった。

彼女の話は嘘でまみれていて,けれどあまりにもさらさらと吐き出されるそれに,俺もいつしかぼんやりする余裕が出てくる。