そんな先輩たらしく説教をしに来たんじゃない。
「ただどんな人なのか会って,見て,話して,そういうことをしに来ただけ。一方的でごめんね」
そう思うなら帰ってくれよって,今そんな気分なんじゃないかな。
でもね,甘い。
分かってるから,こうやって先手を打つんだよ。
私は,とてもずるいからね。
「春陽くん。君はこんなに狭くて寂しい場所で,この先の人生……ううん,数ヶ月,1年を過ごしていくの?」
慎重に,慎重に。
この体を蝕む毒みたいな安全地帯から,引きずり出したいだなんて誤解されないように。
間違えちゃいけない。
私は例え文世くんのためだと言われたって,それに関してはどっちでもいい。
私はただ,文世くんのために,出来るだけ全ての人の最大限を考えなくちゃ。
「"それが君の望みなの?"」
本当に,ここであってるの?
この方法が,君の1番なの?
…違う。
違うから私が救われる。
違うから,見ず知らずの私に,君の瞳が簡単に揺れる。
「そうだよ,1番楽だから。ほっといてよ。ほっといてくれよ。他人の癖に,ずけずけ煩いんだよ」
ツキン,ツキン。
ああ,やめて。
お願い,泣かないで。
引き吊りそうな頬を引き上げて,恐怖の浮かぶ瞳を見えないように細めて。
震えそうな唇を動かした。
「ふふ,ごめんね……やだ。死ぬまで誰にも話さないから,聞きたいこと全部聞くまで帰らないし,ほっておくなんて出来ないよ」



