夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。

「おれ,は」



誘導されて,操られでもしているかの様に俺は口を開く。

舌が絡まって,乾いて,満たされないふわふわとした感覚に頭が混乱する。

けれどその少しの間すら待ってくれない彼女は,急かすように口を割った。



「元には戻れない。だって,常に大きく成長を遂げるものだから。だけど,それなら飛躍も着地も君が思うままに,強引に決めてしまえばいい」



強く,強く鎖を握って。

がしゃんという音すら鳴らなくなるほど強く握って。



「だから,君が取り残されるなら,君が見るべきものは今じゃない。未来だよ」



その人は訴えかけるように唇を引き結ぶ。

その人はそうして,俺になにかをくれようとしていた。



「追い抜かれちゃいけない,惑わされてはいけない。後手になって,他の誰かの夢見る世界に連れていかれる前に」



他人のために必死になれる。

俺のために,笑顔を崩して。



「君が,君が走るの。誰も追い付けない速度で走って,誰よりも先に皆を振り返って」



血を吐くように声を吐き出して。

真剣な表情で,俺に言い聞かせた。



「君の心は無駄じゃない。どんな言葉も,君の言葉ならきっと届くよ。君は誰をどうしたい? どう変えたいのっ?」