夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。

「君は家族が好きなんだね」



俺は沈んだ心をはっと引き戻し,電灯の光を目の中に入れる。

小さく問われたことの意味を頭が理解することなく,ぼうと白んだ。



「だから,自分の持つ不満全てに蓋をして,そんなものを持ってはいけないと無かったことにする」



固く,柔らかく。

あべこべな声質で語る彼女の目に映るのは,誰なんだろう。



「感情をぶつけることは悪いことじゃない。人を傷つけまいとする心はとてもきれいだけど」



その顔が,俺を向く。

俺の目に映るその人は,ちゃんとそこにいるはずなのに。

その顔面は,黒く塗りつぶされたようによく見えない。



「それではだめ,君のお母さんもお父さんも,弟くんでさえ。君を1番に優先してくれる日なんてこない」



やんわりとした微笑が,俺をとらえた。



「だって皆,精一杯だからね」



毒づいているようだ。

それを微笑で繕おうとする彼女は,きっと自分のその1面を受け入れられてはいなくて。

毒づく程,その人には嫌いなものがこの世にあるのだろうか。

それは,なんなんだろう。

どんなものなんだろう。

きぃと鳴ったブランコが,まるで大きく揺さぶられている俺の心そのものの様に思える。



「君は……どうしたいの? どうなって欲しい? どんな未来を手に抱えたい?」



俺もその人に,同じ事を聞きたい。

聞けるだけの強さと,寄り添えるだけの激情が欲しい。