バスの中に一瞬にして緊張が走る。犯人のことを警察官として桜士は取り押さえたいと思っていても、動くことはできない。犯人たちと距離がある上に、犯人たちの近くには老夫婦と運転手がいる。下手に動くと犯人が逆上し、誰かを刺しかねない。

「クラーレ、ベラドンナ、さっさと動け」

バスジャック犯の一人がそう言うと、二人は「わかってるよ、ヴェノム」と言い動き出す。どうやらヴェノムと呼ばれた男性がリーダーのようだ。

（全員毒に関係する名前で呼び合ってるな。コードネームか……）

毒に関係するコードネームを持つ組織を、桜士は耳にしたことがない。そのため、彼らはどこかの犯罪組織の人間ではなく、三人でグループを作って犯行に及んだのだろうと短時間で推理する。

「さっさとバスのカーテンを閉めろ！」

クラーレがナイフを向けながら言うと、桜士たち以外の乗客は、怯えて小さく悲鳴を上げながらカーテンを閉めていく。

「スマホなどの通信機器は全部この袋に入れろ！」