私があのしだれ桜の木の近くで待っていると、穂高くんはすぐに現れた。

「音葉ちゃん」

「穂高くん、ちゃんと話して」

「あーあ、あの神様音葉ちゃんに言っちゃったか」

穂高くんは悲しそうに笑った。

「音葉ちゃん、この桜の木に恋の魔法をかける力は残ってないよ」

「せいぜい言葉をかわせるだけ」

穂高くんが桜の木を見上げる。

「本当は俺が初めに願ったんだ、恋を叶えて欲しいって」

「そしたら桜の神様に言われたんだ」

「お前の好きな女の子は、毎年ここに来るから、桐生 穂高に恋の魔法をかけたと思わせてやろうって」

「だからお前は魔法にかかったふりをして、その子にアピールすればいいって」

穂高くんが悲しそうに笑った。

「去年の春、音葉ちゃんがこの桜の木を見上げて嬉しそうに笑っているのを見たんだ」

「それから何故かずっと気になって、目で追っているうちに好きになってた」

「学校で花壇の世話をしている音葉ちゃんも、友達と楽しそうに話してる音葉ちゃんも全部大好きになったんだ」

「音葉ちゃんのこと見ているうちに、奏斗のことが好きなことも気づいてた」

「騙しててごめん」

穂高くんが私に頭を下げた。