ぼくは、わからなくなってたんだ。
あんなに繭に会いたくて、仕方なかったのに。
それなのに、あの場所でヤツを見た瞬間から、何かが狂った。
頭の中が、あの男への復讐心でいっぱいになったんだ。
目の前に、ずっと想い続けてた繭が現れても…。
それでも、気持ちに変化がなかった…。
それでやっと気がついたんだ。
ぼくは、繭に会うためにここに来たんじゃない。
そう―
ぼくがここに来たのは、
あいつに、復讐するためだったんだって。
その事実に愕然として黙ったままのぼくに、繭は続けた。
『私はコウちゃんに会いたくて、ここでもずっと女優をやってた』
そう言いながら、泣いてた。
『そのほうがコウちゃんが見つけやすいと思ったから…』
大きな瞳から涙がポロポロこぼれてて、だからぼくは、それを拭ってあげようと思って、枝を捨てて、一歩近づいたけど…。
けど、繭は後ずさりした…。
『そんな血まみれの手で触ってほしくない』
おびえた口調とは裏腹に、毅然とした、まっすぐな瞳だった。
吸い込まれそうなほどに。



