…そこで諦めたのかって?
いや、諦めるわけないじゃないか。
むしろ逆だね。
しばらくは呆然としてたけど、時間が経つごとに、燃えてきた。
だってさ、周りに彼女のファンがウヨウヨいるんだ。
写真付きのウチワを持ってたり、映画のパンフレットを読んでたり…。
それを見てたら、急に実感がわいてきて。
ああ、あの子は本当にここにいるんだ!
って。
もうすぐ彼女がここに現れるのは確実だろ。
だから、ぼくに気がつく可能性にかけてみようって思ったんだ。
そう思って、どんどん増える人波に、ぼくも自分の体を滑り込ませた。
…あ、そうそう。
それで、何時間くらい経った頃かなぁ。
突然、背中をつつかれた。
振り向くと、ひとりの女の人が、ぼくを見てたんだ。
でも全然知らない人でさ。
そしたらその人、ぼくに、こう言ったんだ。
『あなた、繭ちゃんの彼氏の俳優さんよね』



