ぼくの話をしようと思う




しばらくの間、沈黙が続いてた。



ずーっと、お互いに目を見て、何かを確かめるように、黙ってた。



それ見てたら、こっちまで緊張が伝わってきて、ドキドキしちゃったよ。



あんまり長い沈黙だから、あーもう、じれったいなって思った。



…思った、そのとき。



『アヤ子だね』



って中園さんがかすれた声で言った。



おばあさん、そのとき、すっごいうれしそうな顔だったよ。



顔中しわくちゃにして、



『礼二さん、お待たせしました』



って。



ゆっくり丁寧にお辞儀をした。






その顔は、映画雑誌を見ながら、ぼくに「良かったな」って言ってくれた中園さんと、おんなじ顔だった。



好きな人とはだんだん顔が似てくるって、あれ、ほんとだね。



65年も離れていても、心はしっかり繋がっていたんだよ。



言葉なんてなくても、空気がそれを物語ってた。



ふたりの周りの空気だけが、すごくゆったりしててね。



…感動したなぁ。