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「悪い、ちょっとトイレ」


哲也がそう言ったのは再び歩き始めて5分後のことだった。


今日も雨が強くてなかなか前に進むことができずにいて、少し苛立っている様子だ。


「あぁ。先に進んでるぞ」


毅が木々の中へ入っていく哲也へ向けて声をかける。


この辺の道は飛ばされてきた木の枝や葉っぱの吹き溜まりのようになっていて、今までよりも滑りやすくなっている。


自然の体に力が入り、全身がガチガチに硬直してしまいそうだ。


毅は時々草木に足をとられそうになりながらも慎重に前進する。


晴れている日ならハイキングコースにもなっているくらいだから、今日中に下山したかった。


下山できなかったとしても、せめてスマホの電波が届く場所には行きたい。


そう思って時折スマホ画面を確認してみるものの、相変わらずの圏外だ。


もしかしたら電波塔が倒れたりしていて、この辺一体の電波がなくなっているのかもしれない。


そう考えると自然と舌打ちしてしまう。


下山できてもすぐには人に連絡を取ることができないということだ。


山から離れて人家を探さないと、助けは来ない。