どうせそこで金品を取られてしまうのだから、今おとなしく出しておいた方がいい。


匠がカバンから黒い財布を取り出すと毅が手を伸ばしてそれを奪い取った。


勝手に財布を空けて千円札を一枚取り出して自分のポケットにねじ込む。


「たった千円かぁ」


毅たちが毎日のようにカツアゲしてくるから、財布にお金を入れなくなったのは正解だった。


といっても1日千円ずつ取られるのだって痛いのだけれど。


それでも、これでひとまずおとなしくしてくれるから匠はホッと胸をなでおろした。


毅や哲也から目をつけられたのは2年生の頃からだった。


元々勉強も運動もできない哲也はできるだけ静かに学校生活を過ごしていたのだけれど、ある日の体育の授業で偶然ふたりと同じチームに入れられてしまったのだ。


種目はサッカー。


ボールを使った競技は全般的に苦手としている匠はサボる気満々でいた。


しかし、教室に残ってポータブルゲームをしていたところを担任教室に見つかって参加することになってしまったのだ。


結果は言うまあでもなく惨敗。