けれどそれは日常生活のなかでの出来事だったと気がついた。


今は山の上の林間学校施設に閉じ込められて、次々に人が死ぬという異常な状況だ。


その中で匠はようやく本来の自分を出すことができているのかもしれない。


哲也に馬乗りになられながらも笑みを浮かべつその姿は気味が悪くて、哲也の方から離れてしまった。


唖然とした表情で匠から逃げるように後ずさりをする哲也。


それを見て匠は起き上がろうともせずに楽しげな笑い声を立てた。


「こんなときになに笑ってんの……」


美幸の呟き声が聞こえてきても匠の笑い声は止まらない。


それは食堂内に響き続けて、脳をおかしくさせてしまいそうだった。


咄嗟に哲也は調理場へと走り、包丁を握りしめていた。


この中で一番怖いのは実は匠かもしれない。


過激なイジメで心が壊れてしまっている匠は、これから先なにをしでかすかわからない。


そんな気持ちになっていた。


哲也は包丁を両手でしっかりと握りしめて匠の前に戻ってきた。


「おい、哲也?」