それしかなかった。


匠はこっそり由香里のスマホを手にして、哲也のアドレスだけを登録したのだ。


日頃受けているイジメの復讐のために。


哲也はギリッと奥歯を噛み締めて匠を睨みつける。


匠はニヤニヤとした粘り気のある笑みをたたえて哲也を見つめた。


「由香里のことはどうせ君たちふたりが殺したんだろう?」


「黙れ!」


咄嗟に哲也は叫んでいた。


自分でも気がつかないうちに顔が真っ赤に染まり、興奮状態になっている。


こんなことでは匠の言うとおりだと肯定しているようなものなのに、自分を抑えることができない。


「毅のスマホに送られてきた死体写真は溺死。由香里も溺死。こんなの偶然じゃないに決まってる」


「黙れっつってんだろ!?」


哲也が匠の胸ぐらを掴んで引き倒し、馬乗りになる。


匠は一瞬痛みに顔をしかめたものの、まっすぐに哲也を睨みつけてきた。


普段の匠から考えられない態度だ。


少し怒鳴って殴ってやればどんなことでも言うことを聞いてきたくせに。