「あの、遊木くん……」
「ん?」
「手……なんで掴んだままなの?」
聞いてから、みるみると顔が熱くなっていくのが分かる。
ちらりと遊木くんと目を合わせると、彼は案の定いつもの無表情で私を見つめていた。
「逃げられないように」
「……え?」
「三島が逃げてかないように、捕まえてる」
そう言うと、遊木くんは私の手を掴んだままふりふりと揺らしてみせた。
逃げる??
私が???
「え、私遊木くんから逃げたことないよ…?」
「そうだっけ? でも逃げそうじゃん」
「逃げないよ…! 私が遊木くんから逃げるなんて、絶対無い!」
思わず勢い良く言ってしまって、かあっと赤くなる。
……でも、本当にそうだもん。
逃げそうなのは遊木くんだよ。
私はいつだって、ふらふら〜っとどこかへ行ってしまいそうな遊木くんを見つけるのに必死なんだから。
「……」
遊木くんは私の言葉にしばらく固まる。
それから、目を細めてふはっと吹き出した。
「なんだぁ、良かったー」
「…そもそも何の話だったの? 逃げるとか」
「さあ? 俺も分かんね」
……そうですか。
やっぱり謎だ、遊木くんは。
そんな突拍子もない言葉にいちいち振り回されてる私も私だけど…!
「三島って手もちっちゃいな」
「……っえ、」
「食えそう」
ぐあっと口を大きく開け始める遊木くんに私はぎょっとして手を引っ込めた。
な、何を……!?
「!??」
「あはは」
「いや、あははって…!」
すっごい嬉しそうな顔してるし!
ほんとに食べられちゃうかと思ったよ…!
彼はまさに虎なのかもしれない。


