――あっという間に夏休みが終わって、久しぶりの登校は少し緊張する。

うっすら肌が黒くなった生徒や、恐らく部活で真っ黒になった生徒をたくさん見かけて、この夏がどれだけ暑かったか改めて思い出す。


まだ席は出席番号順だから、私は廊下側の1番前の席に腰を下ろした。




「おはよ宇紗子」




ポンッと肩を叩かれて振り返ると、そこにはニンマリと嬉しそうに口角を上げて私を見下ろす恵美がいて。

私は「おはよ…」と苦笑いで返しながら、後ろの席の遊木くんがいないことをもう一度確認する。




「遊木くんもう来てるよ。今男子達とどっか行ってるみたい」


「…あ、そうなんだ。
ていうか恵美……にやけすぎ」


「あは♡」




あらそう〜? なんてわざとらしく頬に手を当てる恵美を少しだけ睨む。


でも私も人のこと言えない。

ずっとそわそわしてるし、遊木くんの名前が出るだけでにやけそうになってる。



遊木くんを好きだと自覚したあの夏祭り以降、彼には一切会っていない。

会いたい気持ちもあったけど、自分の気持ちを整理したかったし、夏休みの長期間会わないでいられたのはむしろ好都合だった。




「だってさ、やっと宇紗子が認めてくれて嬉しいもん。私ずっと言ってたじゃん、好きなんじゃない? って」


「……まあね」


「傍から見てもあんた達仲良いし、割と脈アリだと思うよ」


「でも、遊木くんって何考えてるか分かんないとこあるじゃん……」


「…あー、うん。あるね」




遊木くんと仲良いことも自覚して、クラスメイトからもその扱いを受けてて、良い関係性になれているのはすごく嬉しいしありがたい。


私にだけ変なイタズラしてくるところとか、
鹿野くんに仲良しアピールしたりするところとか、
和也くんから守ってくれたりするところとか、

“脈アリ”だと思わせてくれる要素はたくさんあって。


でも、彼はそんな一筋縄でいくような人とは思えない。



だってあの、遊木虎之助くんなんだもん。