病み明けの沙耶香は二日ぶりに居酒屋バイトへ。


オーダー、ドリンクの準備、料理の提供、テーブルの片付け、会計。
沙耶香は二週間ちょっとでフロア業務の全般をこなせるようになっていた。


成長を間近で見守っていたオーナーは、テーブルの片付けから厨房に戻ってきた沙耶香に調理しながら口を開いた。



「サヤちゃん、仕事は楽しい?」

「はい! 颯斗さんが優しく細かく教えてくれるから不足はありません」



相変わらずふたこと目には『颯斗』の名が出てくる沙耶香にふと笑みが溢れる。



「ふぅん、颯斗くん……ねぇ……」

「オーナー! 茶化すのやめてくださいよ」


「はっはっは。サヤちゃんの気持ちはよくわかるよ。彼は兄弟が多いお陰か面倒見がいいし、人間味に溢れている。父親がいない分、心の成長が早かったのだろう」

「……」


「今は給与の半分近くを毎月実家に仕送りしているとか。確か弟が今年高校受験だと言っていたかな。若くて遊びたい盛りなのに、苦労を買って出るなんてなかなか出来るものじゃない」

「そうだったんですか……」


「サヤちゃんがこの二週間で変われたのは、颯斗くんがしっかり面倒を見てくれたお陰だろう。引き続き良い所を見習っていきなさい」

「はい」






一緒に暮らすようになってから見えてきた彼の人物像。
恋は一瞬の一目惚れから始まったけど、気付けば恋心が日に日に大きくなっていく。


籠の中で暮らしていた時に見えなかった外の世界の太陽は……。

とても暖かくて、とても心地良い。


私はあと少しで籠の中に戻らなければならないから、目一杯羽ばたけるうちにたっぷり太陽の光を浴びたいと思っている。