あり得ないことが起こった。私は今日処刑されて死ぬはずだったのに、今はなぜかカイルに抱きしめられ優しく頭をなでられている。


(私のこと思い出してくれたのかと思ったけど、違うみたい……)


 それでも私の処刑に反対し、命がけで助けてくれた。それは私が知っているカイルそのものだ。浄化の旅に出た時も瘴気でおかしくなった動物に襲われると、いつも体を張って皆を助けてくれた。


 師匠のジャレドの女遊びが嫌いで、正義感の塊。時々融通がきかない時もあったけど、弱い立場の人にいつも思いやりをもっていた。


(そうだわ! 今の私は彼にとって、守らなくてはいけない弱い立場の人間。恋人に戻った気になったらダメだ!)


 だって彼はアンジェラ王女の婚約者。否定する様子もなかったし、事実なんだろう。それなら私の無実が証明されても、失恋確定だ。


(とにかく涙も止まったし、彼からは離れよう。適切な距離を保っておかなきゃ、あとで傷つくのは私だもん……)