(情けない……魔術をかけられ、こうもおかしくなってしまうなんて。騎士失格かもしれないな)


 それでも今は彼女に冷たくするほうが違和感がある。緊張しているのだろう。冷たくなった手を温めるように彼女の手を包んでいると、今までの人生で感じたことのない心地よさが俺を満たしていく。


 ――このまま、ずっとこうしていたい。


 頭に浮かんだ馬鹿げた考えを、急いで追い払う。さすがにこんな気持ちでは、仕事ができない。そんなことを思っていると、次第に何の反応も示さない検査板を見て、周囲がざわつき始めた。


「魔力がない?」


(そんな馬鹿な。魔力がないなら、俺のこの感情はなんなんだ? 目が合った瞬間に妙な動悸もあったのに、彼女に魔力そのものがないとは……)


 この場にいる者たちも魔力なしの存在を聞いたことがないようで、動揺しているようだ。アンジェラ王女の「わざと話せないふりをしている」という言葉にも賛成し始め、しまいには「拷問すればいい」などという馬鹿げた提案まで出てくる始末。


(たしか、王女の家庭教師のエリックだったか? 本当にこいつは家庭教師なのか? 暴力による自白の強要は国で禁止されているのに、そんなことも知らないとは。しょせんは遊び呆けている王女の話し相手、といったところなのだろう)


 苦々しい気持ちでエリックの提案を却下すると、案の定冷静さを知らないアンジェラ王女が叫びだした。