(もしかして、カイル……?)


 私はあわてて鉄格子をつかみ、こちらに向かってくる人を探した。暗い廊下にオレンジ色のランプの灯りが、ゆらゆらと近づいてくる。そしてそこに現れた顔は。


「久しぶりね。サクラ」


 アンジェラ王女だ。後ろには私に拷問しろと言った、エリックも立っている。


(え? 今、私の名前を呼んだ? じゃあ王女は私のこと、覚えてるの?)


 声を出すこともできず、目を大きく見開き二人を見つめていると、王女は口の端を歪ませ笑い始めた。


「呪われて、みんなに忘れられた気分はどう? 牢屋の居心地は良いかしら?」


 口に手を当てクスクスと笑い、面白くてしょうがないといった様子だ。私が呆然としているのを、アンジェラ王女は楽しそうに見ている。


(呪い? 私、呪われて皆に忘れられたの? どうしてそんなことに……)


「どうしてって顔ね。ふふ。それはあなたが、カイルを私から盗んだからよ。だから今度は私があなたから、聖女の力も声もカイルも、奪ってあげたの」


(私がカイルを王女から奪った? でもカイルは恋人はいたことがないって言ってたわ……)


 アンジェラ王女は私の疑う視線に気づいたのか、ジロリと睨み、鼻で笑った。