「アンジェラ王女、馬車に戻ってください。ここにいると危険です!」
「だって、あなたが早く、その女を殺さないから」


 王女がカイルの腕に、自分の腕をからませたのだろう。その振動で私の背中にチクリと痛みが走った。


「……っ!」


 ほんの少しの刺激でさえ、今の私には大きく感じる。ふらつく足をなんとか気力で踏ん張ったけど、どうせ落とされるなら意味のない行為かもしれない。


「ケリー、王女を馬車へお連れしろ」
「は!」


 もう涙も出ない。昨夜一晩、地下のカビ臭い牢屋で、さんざん泣いてしまった。今はただ、悪い夢を見ているようで、これから自分が死ぬというのに、実感がわかない。