「カイル団長!」
「ケリー!」


(え? カイルの部下のケリーさん?)


 ひょこっとカイルの背中から顔を出すと、同時に目の前の男がかぶっていたフードを取った。私と目が合うとニカッという音が聞こえそうな笑顔で話しかけてくる。


「聖女様! お元気そうで良かった。ケセラまでは遠くて大変だったでしょう? 団長がむやみやたらに抱きついて鬱陶しくないですか?」
「おまえ、なにを言っているんだ。それに俺の許可なしにサクラに話しかけないでくれ」
「え? そこまで重症なんですか? 殿下に報告しなきゃ……」


 懐かしい二人のやり取りに緊張で固まっていた心がほぐれていく。真面目なカイルをずっと支えてきた腹心のケリーさんは、前回の旅でも私たちが一緒にいるのを見てはカイルをからかっていた。


「鬱陶しくなんてないですよ。カイルにはいつも守ってもらってますし、それに――あれ? ケリーさんシャツに血がついてますよ?」
「え? また? 本当だ。実はこの前アンジェラ王女を教会から追い出す時に、怪我をしたみたいなんです。それが膿んじゃったのかな? お見苦しくてすみません」


 ケリーさんはポケットからハンカチを出すと、血が出ている部分を覆うように巻いた。


「化膿したのではないか?」
「かもしれません。小さい傷なのですが……」


 するとそれをじっと見ていた師匠がいきなり私をかばうように前に立った。そしてケリーさんを睨みつけながら、耳を疑うようなことを言い放った。


「おまえ、サクラを裏切ったのか?」