「もうすぐケセラに到着します!」
馬車を動かしているブルーノさんの声が聞こえてきた。町の少し手前に馬車を置き、私たちは周囲を警戒しながらケセラの町の入り口まで歩いていく。
「万が一王女たちが来ていたら、僕がサクラを連れて教会に転移するからね」
「……わかりました。悔しいですが、ジャレド氏のほうが安全にサクラを転移させられるでしょうから。なにかあったら頼みます」
そう言ってカイルが私のほうを振り返ると、アメリさんが怯えた声を出した。
「カ、カイル様、あそこに人影が……。こっちを見ているようです」
するとカイルを筆頭に、師匠とブルーノさんが私とアメリさんを囲むように動いた。町の入口に立っているのは大柄で背が高い男性らしい。黒いフードをかぶって、誰かを待っている様子だ。
「僕、目が悪いんだよね~。あれ誰かわかる? 町の人? 用心棒かなにか?」
「瘴気のせいでケセラは治安が悪くなっているとは聞いていますが、あれは……」
急に引き返したら、怪しまれてしまうだろう。不自然に思われないよう歩く速度を遅くし、じりじりと町の入り口に近づくと、駆け寄ってくる足音と男性の声が聞こえてきた。