こてんと首を傾げる白桜。

白桜もさすがに気づいていたが、神崎の家の子だし何か自分に言いたいことでもあるのだろう、じゃあ待とうか、と、実に気の長いことを考えていたら、初等部から今に至ったわけだ。

「は。そういう理由です」

月音はブレずに、落ち着いて答える。

「俺、なんだか神崎さんに嫌悪されてるんだと思ってた……。俺が神崎さんを見るとすぐに隠れちゃうから……」

……そこまで認識されていたのか。

ものすごく恥ずかしい。穴掘るから埋めてほしい。

だが、月音は落ち着きをもって返すことができた。

「申し訳ありません。白桜様推しが盛大過ぎて、隠密行動をとっておりました」

「すごいね」

「は」

「あ、もうひとつ訊きたかったんだ」

なんと、白桜特にツッコミなし。ストーカーまがいのことをされていたというのに。

白桜が大物なのか、月音の行動の危険性を認識しなかったのか……。

白桜は神妙な顔で切り出す。

「黒と最近話してるの見かけるんだけど……大丈夫? なんか危ないことになってない?」

そのことか――と月音も納得した。

学内で逢えば、黒藤とは普通に話すようになっている。

そしてひとつ、白桜に伝えていないことを思い出した。

言った方がいいのか迷ったが、白桜に秘密など作りたくなかった。

「は。黒藤様とは友達になりました。それから――白桜様の秘密を、聞いてしまいました」

「秘密?」

白桜がオウム返しに聞いてきた。

月音は腹を決める。

「はい。その、ご性別の方の――」

「え」

「申し訳ありませんっ。その……」

白桜の本気で驚いた声に月音は慌てた。

正確には黒藤の方から話し出したことだが、聞くことに否やとも言わなかった。

白桜の顔が青ざめる。

はっとして月音は言いつのった。

「聞いたのは私と小田切くんですが、一切他言いたしません。父にも話していません」

そう弁明すると、白桜は小さく口を開く。

「……黒。はー……」

恨むような口調で黒藤の名前を口にしたあと、白桜は長く息を吐いた。

そのあと、下げた視線から、ちらりと月音を見てきた。

「……小田切も知ったんだ?」