うそつきな唇に、キス





「え?……は????」



信じられないものでも見るような目でしきりに瞬きをしながら、琴は散らかった情緒をかき集めようとしている。

対して睿霸はわたしと若サマを交互に見やりながら、カレー、カレー????と、まるでカレーという三文字がゲシュタルト崩壊したように延々と呟いていて。

そして、若サマはというと。


なぜか、非常に気まずそうに目線を斜め下へ固定していた。


自分で招いた空気とはいえ、なぜここまで沈黙が満ちるのか理解しかねておろおろとしていたら、呆然としたような声音で、睿霸が静寂を切り裂いた。




「えっ、えるちゃん、なんで若くンの好物とかわかるん……?若くんガ自分から教えたとか……?」

「……?いえ。若サマ、好きな物を朝食や夕食で出された時は表情がすこしやわらぐので、見てたらわかりましたよ」




一滴の疑問も含まず落としたわたしの言葉に、琴と睿霸は揃って目を剥いた。




「表情が少し和らグ?!?!」

「そんな時あったか?!」




ふたりの言葉に、今度はわたしの方がびっくりする番だった。




「えっ、若サマ存外表情差分ありますよ……?今だって少し気まずそうにしていますし……」

「気まずそう?!?!」

「ただ視線下にやっとるだケやろ?!」




……どうやら、わたしと琴たちの間には、一定の溝とも呼べる若サマの認識の乖離があるらしい。