その言葉に、ぱらぱらと書類を捲っていた手が止まった。
睿霸を仰ぎみれば、少し身をかがめて不思議そうにわたしの顔を覗き込んでいる。
……睿霸なら、気づいてそうだけど、な。
わざと聞いてきているのか、本当にわからないのか。
……おそらく、前者だとは思うけど。
「睿霸も気づいているんじゃないですか?……わたしが、若サマに隠して手に入れたかったことに」
「……んー、じゃ、今回はこれダけ伝えとくわ」
ずいっと顔を近づけて、下から掬い取るように覗き込んできた睿霸は、あやしく目尻を緩ませた。
「若くんとこ去リたくなったら、僕んとこ顔見せに来ーや。言い値で雇ったるケ」
「……ふはっ。ありがとうございます。覚えておきますね」
睿霸の的確で、なおかつ半分当たっている言葉に、思わず吹き出してしまった。
きっと、付かず離れずを意識しての言葉。
それがひどく都合のいいものだと、わたしはもう知っている。
「まあデも、理解あるんはほんまやと思うけど。何セ若くん頻繁に自分の氏名とか戸籍の一部変えとるし」
「え?そうなんですか?」
また初耳の情報。
氏名。それはつまり、名字と名前、そのどちらもということになる。
……そんなことをしなければならないほど、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。



