うそつきな唇に、キス




その言葉を聞いたタトゥーの男は、右から左に流しかけて、ふと思いとどまった。



「……ん?待て待て?え、今唯一っつった?けどこの前はえるチャン二番目に綺麗とか言ってたよなあ?」

「あれはアルファとしては当然の受け答えだろう。一番は例外なくオメガになるのは必然だ」

「ああ、だから二番……って、じゃあ何?あの時若クンは若クン自身じゃなくて、アルファとしての回答をしたわけ?」

「そうだが」

「……ボク、若クン個人の意見を聞いたつもりだったんだけど」



げんなりした顔でそう告げた男に、漆黒の男は淡々と、それが世界の常識であるかのように紡ぐ。



「それならばえるしかいない」

「……えるチャン誤解してる気しかしねえんだけど。や、あの子には誤解とかいう概念自体そもそもあんのか……?」



紐解いていたはずなのに、どうしてか迷宮に入り込みそうになっていた男の思考が、目の前で軽くため息をついた男の言葉によって、高速で途切れた。



「……ともかく、これで先日医者を派遣してもらった件の借りは清算した」

「……は。はあああああ?!?!ここでとんの?!マジ?!!!」

「当たり前だろう。お前の無用な質問に幾度も答えるほど、おれは物好きではない」

「……うっわあ、貴重な若クンへの貸しをくっそどうでもいい質問に使っちまった……。……ってか、えるチャンのサービスでいちおチャラにはなったんだけどな?アレのおかげで芋蔓式に関係者捕縛できたからさ」

「他者の功績を奪い取るほどおれも無慈悲ではない」

「えええ、じゃあ今度はえるチャンに借りできたっつーこと?」