うそつきな唇に、キス





がんっ、と不作法にも蹴り上げられた長い足が、円卓へと乗せられた。



「っつーか、あんな優秀な人材どこ行ったら拾えるんだよ。それも────アルファではない人間を」



唐突に落とされた、彼らの話の渦中にいる〝える〟という人物の、ウソの一端。

それを聞いてもなお、漆黒の男は眉ひとつ動かさなかった。



「……さあな。ともかく他を当たれ」

「あ、その感じはえるチャンがアルファじゃねえってわかってた?」

「……いや。確固たる証拠はなかったが、そうではないかとは思っていた」

「うっわ、カマかけられたわ。はーあ。しくったしくった」



などと宣いはしていたが、しくじったとは微塵も思っていないような笑顔を浮かべているのだから、漆黒の男よりこちらの方が数段不気味だった。



「ほんと、なんなんだろうなあ、あの子。ボクの方で個人的に探ってみてもな〜んにも出てきやしねえ。かと言って、世界を知らない無知な女でもない。若クンが知ってるかどうかはわかんねえけどさあ、えるチャンが別邸に突っ込んできた時のバイクの運転技術、なかなかのものだったんだからな?多少傷ついたとはいえ、門と玄関ぶち破ってきた割にどっこも壊れちゃいねえし。えるチャン自身もバイクから吹っ飛んだくせに上手に受身とってたおかげで後ろから狙撃された傷以外負っちゃいなかった」



そこで言葉を区切った、左目にタトゥーを宿した男は、ひどく愉快げに口元を歪めた。



「えるチャン────確実に、経験者(・・・)だよなあ?」