うそつきな唇に、キス





なぜか、わたしはそれを、雪だと思ったのだ。

見たことも、触れたことすらないくせに。小さな声をあげることすら憚れるほどに、息をすれば目の前にあるものが、粉々に砕け散ってしまいそうな、雪だと。



落とされた瞼は。伏せられた長い睫毛は。目を覆ってしまうほどの黒い前髪は。

擦れる、鼻先は。



「──────これで、痛み分けだ」



一瞬を、刹那を。

停止した夜を切り取ったかのような瞳で、若サマはわたしを映していた。



「え、あ、……いたみ、わけ、ですか?」

「そうだ。おれは今えるに同意を得ずにした。……これで誰がなんと言おうと痛み分けだろう。えるは悪くない」



……きっと、若サマに言わせれば、意地でも納得しないわたしへの荒療治の末の行動なのだろう。



「……わかり、ました」



痛み分けと若サマが言うのだから、納得する他ない。

それに、いくら不意打ちといえども、避けられなかったのはわたしなのだから。