うそつきな唇に、キス




らしくないことをしている自覚はあって。

それでも、若サマが生きていることに、何よりも安堵したかった。



「……え、る、」



わたしの頬に伸ばされた指は、雨ではない何かを掬い上げるように、濡れた肌をするりと滑った。

雨とは違う、粒を掻き分けるように。



「……わ、るい、」

「……え、」



なぜそう言われたのか、わからなかった。

若サマに非なんて何一つないのに。


指先を辿っていった先。

光などない世界の中で、その時初めて目が合ったような、気がした。



「さっきの、は、言い方が、悪かった。……すまない、」



瞳が、揺れていたのだ。

あの日のように。



「……や、えと、あの、若サマが謝ることは、ありません。それに最初に約束を破ったのはわたしなんですから、」

「……いや。本当は別のことを言おうと思っていたが、……気が急いて本来責めるべきではないえるを咎めるようなことを言った。……すまなかった、」

「いえ、だから、今回のことはわたしが悪い、」



先走って、琴に事前通達もなく独断専行をしてしまった。

明らかに非があるのはわたしの方で。


それなのに、若サマは再度首を振った。



「えるの行動は、あの瞬間にて考えられる最善策だ。何も間違ってなどいない。だから、誇っていい。……えるのおかげで助かった。……感謝する」