うそつきな唇に、キス






睿霸から指示された逃走ルートは、VIPルームの奥にあるスタッフルームから、従業員の通用口を使って外に出るものだった。

場違いなドレス姿で裏側を闊歩していても、すれ違う従業員はまるでわたしが見えていないように一瞥もくれなかったなあ。これが中立地帯ってことか。


そして、眼前には正面玄関とは違い、きらびやかさの欠片もない薄暗い路地が続いている。

ここは所謂裏口と呼ばれる出口なのだろう。


そんな、完全に音が遮断された夜の中で、唯一響くものがあった。



「………あ、あめ」



土砂降り、ほどではない強い雨が、アスファルトに音を立てて打ち付けていた。



「なんとなく、音で降ってそうだな、とは思ってたけど……」



ここまで酷かったんだ。カジノの中、音が反響して外の音が聞こえづらくなってたからよくわからなかった。



「……どうしてるかなあ、若サマ」



室内では決して言えなかった彼を表す言葉を吐けば、ふと、なぜここで若サマのことを思い出すのだろう、と少し不思議に思った。