「……ご丁寧に、ありがとう、ござい、ます、」
名刺を受け取ってくれたはいいものの、ここからまた会話をすこし繋げなければならない。
あと、5秒半。
「あの、もしよろしければ、なのですが、あなた様にも何かお詫びを……、せめて、飲み物を一杯出させていただきたいのですが」
会話を続けるのは得意ではない。
相手の趣味嗜好を判断してからでないと、会話が噛み合わなかった時にどう話を広げればいいのかわからないから。
けど、そんな悠長なこと、いまは言ってられない。
さっき後ろを通った男の人、たぶん麗孝さんだった。だいぶ雰囲気が違ったけれど、足音や体格からしてみてもほぼ間違いない。
そして、後ろ手に回した手でわたしがお手洗いの方向を指差したので、回収に動いていると予想していい。
そうだったら、はやく終わらせないとあとで睿霸からお小言をもらってしまうかもしれないし。
「あ、いや、自分、そんなに酒、強くない、ので、」
「そうなのですか?」
でも、と目をカウンターに移して気付く。
……確かに、グラスに注がれたお酒、この子の分はあんまり減ってない。



