うそつきな唇に、キス





カウンターチェアの小さな背もたれに捕まるように、黒いコートの裾が蟠っていて。


その隙間から見えたズボンの後ろポケットに、もう1台のスマホが隠されていた。

予備でなければ、プライベート用の物だろう。


……まあ、もし予備だったとしても、何かしらの情報は入れてあるだろうし、お土産にはちょうどいいかな。


そう思って、右手に隠し持っていた小さなUSBメモリを握り込む。

……と同時に、背後で見たことのある影がよぎった。



「……わかり、ました。これは、彼に渡しておきます」

「はい、よろしくお願いします。あ、あと、」



そう言って、お財布の中から出鱈目な名刺を取り出し、カウンターに置いた、直後。

気づかれないよう細心の注意を払いながら、コートの下に覆われているスマホのコネクタ差し込み口にかちりとはめ込んだ。

すこしも音を立てなかったから、気づかれていない、はず。



「こちら、わたしの名刺です。お召し物で何か不備があった場合は、こちらにご連絡をとお伝えください」



睿霸からの話によれば、どれだけ強固なセキュリティが施されていようと、データを抜き取るのに8秒ほどで終わるらしい。

……けれど、逆に言えば最低8秒持たせなければいけない、というわけで。