うそつきな唇に、キス





静かにトイレから退室し、例の人物の隣で追加の飲み物をもらう。


グラスに注がれるは、淡い桜色をした梅のお酒。


それを持って俯きがちにその人の後ろを通り抜けようとした、時。



「……大丈夫かな、」



──────若サマ


……なんていう四文字を紡ぐ前に、ドッと体が揺れ、共鳴するようにグラスも揺れて。


中身が、例の男の人へ、狙い通りにかかった。



「あっ、」

「うわっ?!」



わたしが慌てて上げたような声と、男性の短い悲鳴のような声が漏れたのは、ほぼ同時だった。

ぶつかってきた人はわたしになんて気にも留めることなく、連れでもいるのかソファ席へと向かって行って。



「す、すみません!お召し物を汚してしまって……!」

「いえ。お気になさらないでください」



ハンカチを取り出そうとしたけれど、その男性は柔くわたしを静止して、隣の人へ小さく声をかけると席を立ち、予想通りお手洗いへと向かっていく。


……さて。問題はここから。


わたしがさっきドアへ吊るしたのは、〝清掃中〟の札ではない。

もうひとつあった──────故障中の札だ。