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「……ふるえて、なかった、と、いいなあ」
待宵の如き静観する夜を、ひとりだけバイクのエンジン音を鳴らしながら、ヘルメットの奥に隠した声の揺らぎを反芻していた。
こういうの、なんて言えばいいんだろう。語彙力はじゅうぶんに備わっているはずなのに、当てはまる言葉を形成できない。
怯えにも似た震えを。諦観に似た食言にも。
もう深夜2時を回る頃合いですれ違う車もいないから、気にしたことなどなかった仮面の下にある自分の感情に、初めてまともに向き合っていた。
「……あ、ちゃんとここでは法定速度守らなきゃ」
速度遵守で行くなら、あそこには若サマの家から軽く30分はかかる、はず。
正直、直接じゃなくてスマホで済ませたかったけど、アレが送られてきた以上、スマホに頼りっぱなしなのにも良くない。
……し、あと、直接じゃなきゃ頼めないこともある。
「……まあ、いずれ訪ねきゃいけないとは思ってたから、都合はいいと言えばいい、かな」
琴は若サマに付きっきりになるはず。
だから、わたしを追うにしても誰かをこっそり付けるか、もしくは────。
ふと、そこまで考えて、何気なくミラーを見た時。
────無音の殺意が、腕をかすめた。



