うそつきな唇に、キス




琴みたいな般若顔を披露した相模さんに、怯える七宮さん。そんなふたりの姿を見て、ふと思う。

……このふたりに血縁関係はない。それなのに、どことなく、家族、……みたいな空気がふたりの間にある気がするのは、わたしの気のせい、なのだろうか。



「そ、それより!これ、前回の騒動の始末書兼報告書!!はい!!!」

「あ、ではついでにこれにも目を通しておいてください」

「お前ら、お客さまの前なんだぞ……」



はあ、と眉間を揉む相模さんが、なんだか琴に見えてきた。

……たぶん、この人も苦労してるんだろうなあ。



「わたしのことは本当に気にしなくて大丈夫ですので」

「すみません……」


頭をぺこぺこさせながら、ふたりから書類を受け取る相模さん。そんな彼を見つめていると、わたしがよく知る視線が向けられた。

……それを完全にスルーして、再度部屋を見渡してみる。


壁に打ち付けられた棚には、重そうなドッジファイルが数冊並べられている中、そこにちょこんと可愛らしく添えられている文庫本が一冊。

机の上は随分と整理されていて、他の部屋とは段違いと言っていいほど何もない。あるとしても、卓上ランプと写真立てくらいだ。


あと目立つのは、壁にかけられたテレビやエアコン、ベッドにクローゼットなどの家具家電だけ。本当に見るものがなくて困ってしまう。