「あ!すみれが咲いてる」

予約時間の10時までもうすぐ。
換気のため窓を開けた小雪は、ホテルの庭園に目をやり、そこに咲く数々の花の中にすみれを見つけた。

(ふふっ、あとですみれちゃんとお散歩に行こう)

そう思って目を細めた時、チリンと入り口の扉に付けている鈴が鳴り、もうすぐ3歳になる小さな女の子が母親と手を繋いで入って来た。

「こゆせんせい!おはようございます!」

タタッと可愛い足取りで駆け寄り、小雪にお辞儀をする。

「すみれちゃん、おはようございます!」

小雪は跪いて女の子と目線を合わせると、微笑んでお辞儀をした。

「小雪先生、おはようございます」
瑠璃(るり)さん、おはようございます」

女の子の母、瑠璃にも笑顔で挨拶する。

「今日もよろしくお願いします」
「はい。今日も安全にお預かりします」

瑠璃が差し出した連絡ノートを受け取ると、小雪は瑠璃のお腹に目をやった。

「また少し大きくなりましたね!体調はいかがですか?」
「ええ、お陰様で順調です。もう7ヶ月に入ったの」
「そうですか!夏が楽しみですね。すみれちゃん、お姉さんになるんですものね」