やがて空気にも徐々に暖かさが戻り、また春がやって来た。
僕が海から上がって、ちょうど一年になる日だ。

「なんであの時、奏たちは海に来ていたの?」

 その海に向かう電車に、彼女と二人で乗っている。

「毎年部活で、海岸の清掃活動に参加してるの。それで、打ち上げられたゴミを拾っていて……」

 電車を降りる。駅を出ると、田舎町の小さな商店街が、海岸まで続いていた。
今日は僕と奏の、最後のデートの日だ。

 閑散とした土産物通りの店を、一つ一つ見て回る。
小さな通りにぎゅうぎゅう詰まったお店は、フジツボが並んでいるみたいだ。
僕は奏の欲しがった、小さな貝の飾りを買ってあげる。
奏も同じものを僕に買ってくれて、彼女はそれを携帯にぶらさげ、僕はポケットに入れた。
それから僕の好きなイカ焼きを食べ、奏が食べたいと言ったかき氷を食べる。

「なんでかき氷? 寒いでしょ」
「いいの!」

 小さな甘味処で、なぜか一軒だけかき氷をやっている店を見つけた。
お店の人は、「たまにそういうお客さんがこんな時期にもいるのよ」なんていいながら、黒い木製のテーブルの上に、ピンクのかき氷を置く。

 彼女がスプーンでそのひとさじをすくって、僕に差し出した。
口の中に、冷たくて甘い氷の欠片が広がる。
僕たちはこの数日を、一番大切な言葉を避けて過ごしていた。

「明日は海に帰る日だから、奏は来なくていいよ」

 そう言ったのに、彼女は一緒に行くといって聞かなかった。
一人で海から上がって来たのだから、僕は一人で海に戻るつもりだったし、そうすべきだと思っていた。
奏が本当に、ずっと最期までそばにいるだなんて。
こんなことになるなら、僕は本当は用意された自分の家の風呂場みたいなところで、いつの間にか泡となって消えた方がよかったのかもしれない。
彼女の氷をかむシャリシャリという音が、他に客のいない狭い通路みたいな店内に響いていた。

「季節がまだ、夏だったらよかったのに」

 スプーンを持つ彼女の手が震えている。
その手に触れると、冷たく冷え切っていた。
僕は彼女の手を温めようと、そっと包み込む。
スプーンの氷が溶けそうになっているから、そのまま顔を近づけ、口に入れた。

「食べ終わったら、海に行こう」