ママの手記には色んな事が書いてあった。
女で一つで娘を育てる大変さも、店を切り盛りする大変さも。
それらも全部、ママの愛情で包まれてて。
その想いを忘れずにいたいから。

「きっと、翔にも進むべき道はあるはず。自分が思い描いてない道かもしれないけど、どんな道であろうとも、私が支えるよ」
「……それって」
「結婚しようってことじゃないから!」
「んだよっ」
「弱ってるからって、何言ってもいいわけじゃないでしょ」
「大人になったな」
「翔には言われたくない」
「それ、どういう意味?」
「さぁね」
「………んじゃぁさ」
「ん?」
「約束しろ」
「何を?」
「俺は俺なりに努力するから」
「ん」
「再びレースに出れるようになったら……」
「うん」
「俺のお願い事、一つ聞くって」
「『結婚』以外ならいいよ」
「フッ、上等ッ!!……約束だからな?」
「うん」

翔は逃げないって知ってる。
どんなに辛くても、努力し続けて来たもの。
ずっとずっと見守って来たからこそ、分かるものもある。
ここで諦めない男だって。
例え、選手生命が断たれたとしても、彼は最後まで努力するはず。
結果、思い描いてたのと違うものだとしても、きっと納得して次のステージに行くって。

だから、私が出来ることは、彼の背中を押すことだけ。
『頑張れ』とは言わない。
今でさえ十分頑張ってるもん。

「明日の便で日本に帰るけど、何かして欲しいことある?」
「……どんなことでもいいの?」
「うん、いいよ」
「凜のペンダントちょうーだい」
「え?」
「シリアルナンバー『005』のやつ」
「何で知ってんの?」
「昨日ここで寝てる時に気付いた。俺のファンなんだなぁって」
「っ……」