「ただいま~」
「翔くん、おかえり~~」

凜の家に到着すると、リビングで凜ママが笑顔で出迎えてくれた。
店は『臨時休業』の札が掛けられていて、緊張と不安が再び押し寄せて来る。

「これ、凜に。さっきルクレールで買って来た」
「あら、私じゃないのね~?」
「凜ママにはこっち」

第二戦がイタリアだったこともあり、凜ママに似合いそうなスカーフをお土産として手渡した。

「わぁ~綺麗なスカーフ!!ありがと~」
「どう致しまして~」

もちろん、凜にもお土産はちゃんと用意している。
凜ママが珈琲を淹れてくれて、俺と父親はソファーに腰を下ろした。

「翔くん、急に呼び出してごめんね」
「あ、それは全然構わねぇけど」
「あのね……、遠回しに話しても伝わり難いと思うから、単刀直入に話すわね」

向かい合う形で座った凜ママは、俺の目を真っすぐ見据えて口を開いた。
そして、テーブルの上に置かれた箱の蓋を開け、中から幾つもの書類らしきものを取り出した。

「これがこの家の権利書、これは私が凜のために貯めて来た預金通帳と印鑑で、こっちのが店用の通帳と印鑑。それから、これは私の生命保険証券、それとこの鍵はこれらが入ってる金庫の鍵で、こっちの鍵はドレッサーの鍵なんだけど」
「ストップストップストーーップ!!ちょっと待ってよ、何の話?意味わかんねぇんだけど」

いきなり目の前に、『貴重品』と言われるようなものがずらりと並べば、引くってもんだろ。
予想もしてない行動に唖然としてしまい、何がしたいのかさっぱり分からない。

「最後まで聞いて欲しいの」
「ん、ごめん」