弟が冷蔵庫から目線を流して私に向けたのは,よりにもよって他と少し違ったラッピングのもの。

沢山あるんだから1つくらい……そういう気持ちは分かる。

理解できる,けど。

どう見たって人にあげるものでしょ!

そう恨みがましく,私は弟を睨んだ。



亜衣(あい)のは隣に入れてるやつ1袋! お母さんにも言っといてよ!」



お母さんは夜勤明けだとかで,珍しくまだ寝ている。

お父さんは早くに働きへ出て,リビングにいるのは着替えてすらいない呑気な弟と,それを睨む私だけ。



「そんな怒るってことはさーやっぱり。姉ちゃん告んの? イベントに引っ張られ過ぎじゃね? それも全部その為?」



亜衣が口に放り入れて,美味しそうに表情を緩めたそれは……チョコレート。

そう,亜衣の言うイベントとは,バレンタインの事だ。

カッと体温が上がって,否定しようとすると



「ふーん」



それよりも先に,いじけた声がした。