こうして、始まった1日。先週とは全く違う氷室の態度や指示に七瀬は驚きながら


(とにかく、明後日の会議の資料作りを前倒ししないと・・・。)


今朝、出勤しながら、頭に描いた自分の作業スケジュ-ルを修正して業務を進める。あっという間に、午前中が過ぎて行き、昼休みに入ろうかという時間に、定例取締役会から戻って来た氷室は


「七瀬、今日の取締役会の内容だ。」


と書類を七瀬のデスクに置いた。


「えっ?」


「目を通しておけ。あとでお前の意見を聞くからな。」


「私の、ですか?」


またしても七瀬は驚かされる。少なくとも先週、氷室が自分にはもちろん、城之内にも取締役会の内容を話したり、まして意見を聞くようなことはなかった。そんなことは秘書の職務を逸脱している。



「じゃ、飯行くぞ。」


だが、氷室はそう言うとさっさと部屋を出て行く。七瀬は慌てて後を追うしかなかった。


地下の社員食堂で合い向かいに座っての昼食。先週も打ち合わせを兼ねて、城之内も交えて何度か一緒に昼食を摂ったが、その時は執務室だった。大勢のいる食堂で、取締役と秘書が一緒に昼食を摂っている姿を、七瀬も見た記憶がない。特になにを話して来るわけでもなく、黙々と箸を動かす氷室を、不思議な気持ちで見ていた。


そして、営業会議。氷室に付き従うように、七瀬が姿を見せると、会議室がざわめく。


(そりゃ、そうなるよね・・・。)


七瀬が思っていると、果たして


「なんで藤堂がいるんだよ。」


と声を上げたのは


(若林くん・・・。)


彼女とは因縁浅からぬ、若林雅人営業部第二課主任だった。


営業会議は週あたまの月曜日午後一に、営業部の係長以上の役職者が全員集まり、現在の状況と今後の見通しを、営業本部担当重役に報告し、それに対する講評や今後の指示を受ける場である。


営業本部長を務める常務はもちろん、社長、副社長、専務も基本的には全員出席。IT企業であるプライムシステムズの中で、この会議だけはオンライン開催が認められていないという、社内で、最重要と位置付けられている会議だ。