「とりあえず乗ってくれ。」


と声を掛けた大和の表情は強張っている。訳が分からないまま、助手席に乗り込んで来た七瀬に


「ご無沙汰してます。」


声を掛けて来たのは、福地爽哉。誰あろう、大和の元婚約者佐倉弥生の現在の彼氏だった。


「なんであなたが・・・?」


思わず咎めるような口調になる七瀬に


「せっかくのデートのお邪魔をして申し訳ありません。」


と頭を下げる福地。


「ねぇ、どういうことなの?」


今度は、七瀬は隣でハンドルを握る大和に尋ねる。


「出掛けようとしたら、急にこの人が訪ねて来られて・・・。」


突然面識のない男が、自分の前に現れ、戸惑いと警戒を露にする大和に、自分の姓名と弥生の関係者であると告げた福地は


「弥生のことで、どうしてもあなたに聞いてもらいたいことがあります。少しお時間をいただけませんですか?」


と懇願するように告げた。今は人と待ち合わせているから時間がないと断ると、そこをなんとかと食い下がって来る。更にその待ち合わせの相手が七瀬だと知ると


「それはちょうどいい。藤堂さんにも是非聞いていただきたいことです。」


と言って、強引に車に乗り込んで来たのだと言う。


「どういうことなんですか?福地さん。だいたいあなた、佐倉さんと一緒に外国へ行かれたはずじゃ・・・。」


改めて、後部座席に七瀬が顔を向けると


「全ては、目的地に着いてからお話しします。」


福地はそう言って、また頭を下げる。


「目的地って?」


「順心堂大学病院、私の勤務地です。」


「病院?」


「ああ、それを聞いて、俺もこの人の話を聞く気になった。」


固い表情で大和は言う。


(この人、確か医者だって言ってた。だから、病院が勤務地であるのは不思議じゃないけど、なぜ今病院に・・・?)


疑問を抱きながらも、七瀬の胸に徐々に不吉なものがよぎる。その後はほとんど全く会話もなく、重苦しい空気のまま、車は1時間強で目的地に着いた。


(この病院、ビーエイトの近くじゃない・・・。)


七瀬は気付いた。弥生とこの男の密会を初めて目撃したのが、ビーエイトからの帰りだったことを思い出し、何かが少しずつ繋がり始めたような気がしていた。


「長時間のドライブになり、すみませんでした。どうぞ、こちらに。」


車を降り立った福地は、2人を案内するように歩き出した。