(異常はなさそうだな)

笑みを顔には浮かべつつ、心の中で桜士は呟いた。その時、視線をふと感じて楽しそうに笑う一花ではなくカフェの出入り口の方に目を向けると、そこには少し困った様子の十がいた。

『こっちに来い』

口パクで桜士は言う。十はどこか安心したような表情になると、桜士のいるテーブルへと近付いてきた。

「本田先生、探しましたよ」

「雨宮、すまない。知り合いにあって話に夢中になっていたんだ」

十が近付いてきたことで、一花たちは驚いた顔をしている。ヨハンが十を睨み付けた。

「誰だよ、お前」

「初めまして、雨宮唯と申します。本田先生の従兄弟で、会社員だったんですが、今は医学部に入るために勉強中です」

十はペコリと頭を下げ、桜士が素早く「皆さん、よかったら先輩として色々教えてあげてください」と言う。一花がふわりと十に笑いかけた。

「お医者さんを目指してるんですか?嬉しいです!」

「小さい頃に抱いた夢をやっぱり叶えたいと思ったんですよ」