あの過保護すぎる看病は、私のことを心配してくれるからだとわかっている。ダグラスやスカーレットは私のことを心配して、珍しい薬草を取ってくると出て行ってすでに二週間が経った。もう風邪も治って元気なのだが──。人族が脆弱ゆえ信じてもらえない。

(ダグラスやスカーレットと一緒に寝られれば、怖くもなかったのだけれど……)

 不意にセドリック様の『いつでも頼ってくださいね』という言葉を思い出す。
 最後の手段。
 そう思い、裸足のまま松葉杖をついてセドリック様の部屋に繋がっている扉に向かう。部屋に訪れるなど夜這いと思われてもしょうがない。けれども雷は本当に駄目なのだ。
 控えめにノックをしたのち返事を待ったが、沈黙が続いた。

(もしかして寝てしまっている?)

 もう一度だけ、ノックをして返事が無かったら布団をかぶって寝るしかない。
 そう思って、ノックをしたが返事はない。
 踵を返そうとした瞬間、 閃光が走った。

「ひっ」

 次の瞬間、轟音が来ると思って両耳を塞ごうとしたのだが、松葉杖で立っていることを失念していて体がバランスを崩して傾く。

「あ」
「オリビア?」

 唐突に扉が開き、倒れかけた私をセドリック様は素早く抱きよせた。バスローブを着ており、お風呂上りだろうか髪が僅かに濡れている。

「やっぱりオリビアだったのですね。一瞬、都合のいい幻聴かと思いました」
「あ、その。……こんな時間にすみません」
「とんでもない。貴女が困った時に助けられてよかったです。……それで、こんな時間にどうしたのです?」

 濡れた髪を片手で掻き上げつつ、片腕で私を支えてくれるセドリック様にドギマギしながらも、ここに来た経緯を話そうとした瞬間──。
 カーテンの隙間から真っ白な光が漏れ、私は反射的にセドリック様の胸元に抱きつく。

「ひゃっ」
「!」

 セドリック様は硬直しつつも私をギュッと抱きしめ返してくれた。少し苦しいが彼の心臓の鼓動が聞こえてくる。石鹸とハーブの香りが鼻腔をくすぐった。
 轟音が聞こえた気がしたが、彼の心臓の音で掻き消えた。

「…………ああ、オリビアは雷が苦手でしたか。それで私を頼って下さったのですか」
「は、はい……。一人で寝るのは怖くて……」
「可愛いですね。私を頼って下さって嬉しいです。これからはもっとたくさん私を頼ってくだい」

 セドリック様は嬉しそうに頬擦りする。くすぐったいが、この三カ月で彼の溺愛を受け入れつつある自分がいた。ちょっとしたことでも「可愛い」とか「愛しています」とか溢れんばかりの愛情を注ぎこまれたら、いくら鈍い私でも彼が本気だと分かる。
 何もわからないままエレジア国に保護されてクリストファ殿下の婚約者として、相応しくあろうと努力した。その成果が実るほど私の存在は雑に扱われて行き、外出もできないほど内職など多忙になっていった。

(セドリック様は……本当に私のことを気遣って、大事にしてくれる)
「ああ、そうだ。私の傍に居れば防音魔法を使って雷の音を消すことができますので、ご一緒してもよろしいでしょうか」
「本当ですか。よろしくお願いいたします!」