「オリビアッ。……あああああああああああ!」

 石化した彼女の前で泣き崩れ、兄に託したことを後悔した。
 この時ほど自分の弱さと、無力さをあの時ほど呪ったことはない。石化した彼女は本物の石像のように冷たくて、硬い。それでも彼女の香りが微かに感じられた。

 オリビアの「絶対に帰ってくる」と言った言葉を思い出す。死ぬためではなく、生きて戻るために石化を選んだ。それはたぶん、私やダグラス、スカーレットの元に帰るため。
「もしセドリック様たちがいなかったら、オリビアは自分の命を使い切っていただろう」と宮廷治癒士となったローレンスは言葉をかけてくれた。私たちがオリビアの生き方を変えたのだと。

 その後のダグラスは石化魔法が解除されるのは五十年、いや百年以上かかる可能性があるという。厄介なことに他の悪魔が絡んでいると。だからそれまで彼女に相応しい者になろうと決めた。それはダグラスやスカーレットも同じだった。魔物との戦いで腕を磨き、共にオリビアが復活するまで三人で約束をした。

 今度こそ、オリビアと一緒に暮らし幸せにすると──。
 思えばオリビアは強がってばかりで、その癖お人好しでお節介だった。もっとも彼女のお節介があったからこそ、自分たちの家族が壊れずに済んだと言っても過言ではなかった。
 私は彼女に甘えるばかりで、彼女を甘やかすことはもちろん、愛していると求愛にも子供の戯言で片付けられてしまった。聡明で勇猛で誰よりも気高き魂──自分はそんな彼女に惹かれ、百年以上たった今でもその思いは変わらない。
 いや、オリビアを思う気持ちはもっと強くなった。
 沢山傷ついて寂しい思いをさせてしまったけれど、それも今日までだと胸に誓う。

「ん……」

 ついつい昔のことを思い返してしまった。「すうすう」と寝入っているオリビアを前に口元が緩む。
 それから侍女たちを呼んで、オリビアの着替えなどを頼んだ。昨日から会話する時間は短かったが、ようやく会えた喜びを噛み締めることができた。
 着替えが終わった寝巻きのオリビアの姿もとても可愛らしい。そっと頬に手をやると擦り寄る仕草も堪らない。

 キスぐらいは──許されるだろうか。いや寝ている時にするのは紳士的ではないし、何より彼女の反応が見たいので明日までのお預けとしよう。
 竜魔人の感覚では、百年は数カ月のようなものだが、それでもオリビアと会えない日々は苦痛だった。石化した彼女を傍に置き、魔法が解けるまで辛抱強く待った。
 三年前の出来事は「自分が油断していた」の一言に尽きる。だからこそ三度目はない。これ以上、オリビアの心労を増やさぬように全てを終わらせる。