そう言って、先輩を抱きしめたかった。

 手を伸ばして、先輩に触れようとする。

 ……でも僕にそれは、できなかった。

「あっ、新さんから連絡だっ……。」

 先輩のスマホが音を立て、通知音が響く。

 その画面を見て、先輩はいつも以上に頬を緩ませていた。

 ……あぁ、やっぱり僕じゃダメなんだなって、身に沁みて、分かったから。

「そろそろ私帰るねっ。皐月君たちも、早く帰って休んでねっ!」

「……神菜先輩。」

「どうしたの?」

「最後に、頭撫でてください。僕、勉強頑張ったので……。」

 気付けば、引き留めてそんなわがままを言っていた。

 ダメだ、こんな事言ったって困らせるだけなのに。

 はっと我に返り、さっきの発言を撤回しようと慌てる。

「よしよし、頑張ったね。偉い偉いっ。」

 だけど先輩は、優しい言葉と共に僕の頭を撫でてくれた。

「それじゃあまたねっ!」

 ほんの数秒。それだけだったのに、僕の心は満たされた。

 ……えへへ、先輩に頭撫でられちゃった。

 これだから、先輩を好きなのがやめられない。