「悪いな……少しだけだから。」

 俺にしてはよくやっていると思う。

 自分の胸の中に神菜を抱き寄せ、弱い力で包み込む。

 神菜はこういうの、きっと嫌う。

 新さん以外に抱きしめられるのは嫌、だろうな。

 そうは分かっていても、今の俺はこうしたかった。

 親父は空気を読んでくれたのか、一階に下りていった。

 ありがたいな……と思いつつも、あんまり長い時間こうしているわけにもいかない。

 名残惜しいと思って、抱きしめていた腕を解く。

「悪かった。抱きしめたり、して……。」

 神菜には新さんが居るのに……なんて、ただの保守だな。

 そう思う事で自分の制御をしているだけ。

 怒るだろうか。悲しむだろうか。

 自分のした事だったのに、急に不安が苛む。

「ううん、大丈夫だよ。疾風君、不安だったもんね。私は抱きしめる事はできないんだけど……よしよしっ。」

「っ……ありがと、な。」

 少しでも気を緩めたら、俺は確実に情けなくなる。

 だからすんでのところで、頑張って止めた。